
ふと、ある外国人の書いた日本滞在記のブログを目にしました。
そこには、日本に来て最初に強烈な印象を受けたものの一つとして、「電車内で平然と眠る、明晰なスーツ姿の酔っ払い社員」のことが詳細に綴られていました。
著者はこう書いています。
「自国では、あそこまで泥酔して公共の場に横たわる人は、まず財布やスマホを狙われるか、そもそも危険人物と見なされてしまう。でもここ日本では、周囲の人々は少し呆れた顔こそするものの、基本的に無視するか、時には優しく声をかけている。これはいったいどういうことなんだ?」
この文章を読んだ時、複雑な気持ちになりました。
「ああ、なるほど。確かにそうだよな」という深い共感と、「いや、でもそれ、海外から見るとかなり恥ずかしい光景なんだ…」という顔から火が出るような照れ。そして、「でも、それって『安全』の裏側にある、ちょっとダサい私たちの日常なんだ」という気づきです。
住んでいる側からすると、この光景は「安全の証」であると同時に、ちょっと「恥ずかしい習慣」でもあるのです。
「安全」の象徴としての酔っ払い
まず、否定できないのは、これが日本の比較的高い治安レベルの証左であるということです。
外国人のブロガーが指摘する通り、多くの国ではあり得ません。
深夜の電車でひとりぐっすり眠ることは、極めてリスキーな行為です。しかし日本、特に大都市圏では、これが日常茶飯事で起こります。周囲の乘客は、彼らを「迷惑な存在」とは思っても、「物理的な危険人物」とはまず思いません。
これはつまり、
- 窃盗や暴行などの犯罪に巻き込まれる確率が相対的に低い。
- 周囲に「まあ、大丈夫だろう」と見守る(あるいは見て見ぬふりをする)一種の暗黙の了解が社会にある。
- 最終的には駅員が対応してくれるという社会的なセーフティネットが機能している。
ということの表れです。私たちは無意識のうちにこの「安全」を享受し、それが当たり前になってしまっています。だからこそ、外国から来た人にとっては、この「当たり前」が非常に珍しく、驚きをもって映るのです。
「恥ずかしい」と感じる住人の本音
では、なぜ私たちはこれを「恥ずかしい」と感じるのでしょうか?
それは、この光景が日本の社会の「ダークサイド」も同時に露わにしているからです。
- 「働き方」への問いかけ
彼らはなぜ、ここまで泥酔しなければならないほど疲弊しているのか? その背景には、長時間労働やストレスの多い職場環境、付き合いを断れない企業文化といった問題が横たわっています。酔っ払いは、日本の社会人がどれだけ精神的・肉体的に追い詰められているかを可視化した、生々しいシンボルなのです。 - 「公私の区別」のなさ
私服ではなく、会社のスーツのまま泥酔していることが多いのも特徴的です。これは、個人としてではなく、「会社員」という肩書に埋没した状態で帰宅途中にあることを意味します。自分というものをオフにできず、会社の色に染まったままの状態は、ある種の哀れみや切なさを感じさせます。 - 「多少の迷惑は許容する」という曖昧な寛容さ
周囲は完全に無視しているわけではありません。じろじろ見たり、鼻で笑ったり、ため息をついたりします。つまり、「迷惑だけど、まあ仕方ないか」というある種の諦めにも近い寛容さで成り立っています。これは美しい共生というよりは、「自分もいつかそうなるかもしれない」という暗黙の共犯関係の結果のようにも見えます。
安全と恥ずかしさは表裏一体
結局のところ、この「酔っ払い」現象は、日本の安全神話の「光」と、その陰に隠れた社会のひずみという「影」の両方を如実に表しているのです。
私たち日本人は、この光景を「世界に誇れる安全の象徴」として純粋に喜べない複雑な心境を抱えています。だって、それは同時に、「世界に誇れるとは言い難い働き方の象徴」でもあるからです。
外国人のブロガーは、純粋に「安全だ!」と驚き、面白がってくれました。その視点はとても清々しく、私たちが当たり前だと思い込んでいる社会の特異性を気づかせてくれます。
しかし、住む者としての私たちは、その「安全」の土台を支えているものの正体が、決して褒められたものばかりではないことも知っています。だからこそ、称賛されるとなんだか複雑で、「いや、その安全の裏側には、こんな恥ずかしい事情もあってね…」と、照れくさそうに釈明したくなるのでしょう。
次に終電の車内で横たわるサラリーマンを見かけたら、それは単なる「安全な国の風景」ではなく、「安全だからこそ表面化する、社会の課題が詰まった風景」なのだと、ちょっとだけ考えてみてください。
そして、いつかこの光景が、「安全はそのままに、もっと輝かしい理由で」外国人の目に驚きをもって映る日が来ることを、こっそりと願わずにはいられません。
Let’s redoing!
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